甘夏edu

育つ、育てる、育む、教育などなど、「育」関連のあれこれについて

習い事をやめる時

「やっぱりぼく、剣道やめたい」

と、朝5時に言われた。ぎょっとして飛び起きると、枕元に正座して既にはらはらと泣いている次男がいて、さらにぎょっとした。

 

とっさに、「そっか、わかった」と言ってしまってから、こんな即答で大丈夫かわたし、という不安がよぎる。

「ちょっとやっぱり時間とって話そう。」と約束して3日。ようやく話ができた。

 

兄がいる中では話しにくいかと思い、近所のカフェに連れて行って、話を聞いた。

 

「これやりたくないなあ、と初めて思ったのは年長の時」

 

と真顔で言う2年生に、まずのけぞった。うわーごめん、そうだったんだ…と思う。

 

何が嫌だったのかを聞いた。嫌じゃなかったこと、好きだったことも聞いた。この3年間を、小さい身体で、心をたくさん揺らしながら過ごしてきたことが、よくわかった。

 

ここまでなぜ続けてきたのかと聞いてみる。やめるっていうと先生ががっかりすると思ったから、という答えが返ってきた。さらに、「あと、お母さんも…」と申し訳なさそうにつけたす息子。わー一番言われたくない奴きた…だけど、練習を頑張ればほめ、試合から帰れば労い、とやり続けてきたのだ。「この人期待してるな」と思わせるには充分すぎる。

 

ややいたたまれなくなり、「お母さんがどう思うかは気にしなくていいよ。」と言った。わかった、じゃあやめようね、と続けた瞬間、

 

「でも、ぼくにはそれが大事なんだよ。」

 

と、息子がさえぎるように言ったのでびっくりした。えっ、あたし今自分の気持ち聞かれてる…?慌ててしまって、言葉が出てこない。

 

それから息子はテーブルにてんびんを書いた。

「こっちが、やめていいよ、って気持ち。こっちが、やめてほしくないなあって気持ち。」何が乗ってる?それは10何分か前にわたしが彼に向かって尋ねたことだった。

 

観念するしかなくて、わたしは両方のてんびんに乗っているものについて話した。話しているうちに新しく気づいたこともいくつかあった。たっぷり聞いてもらって、わたしは晴れ晴れとした気持ちで、改めて息子の選択を祝福する気持ちになった。

 

「習い事をやめる」に際して、結構いろいろ考えていた。やめぐせつけないように、とか、大事なのは次に生かせるかどうかだよね、とか。だから、一方的に聞き、勝手に収めようとしてしまった。そんな風に親という立場に逃げ込んで自分の思いを隠そうとするわたしに、息子はきっちり異議申し立てをしてくれた。「どう思う?」と問いかけ、大事なんだよそれ、と言ってくれた。

 

何より、「剣道やめたい」という自分の希望が通りかけた瞬間に、「いや待ってお母さんそれでいいの?」とぐいっと戻ってきた息子の勇気とプライドとわたしに向けられた愛情を、わたしはきっと忘れないだろう。